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 ラ・ヴェントリア大陸の暦で第四の月、聖王樹ジルティアの月。

 辺境のブルーフォレアではやっとのことで春を喜ぶ月であるが、少しばかり南にくだったここノースグリーヴ王国では、まさに春を謳歌する月であった。森に囲まれた辺境地にくらべ、海に向けて開けた平野の中心に位置する北王国は、南から海を渡ってやってくる春風に優しく抱かれ気温だけでも随分と暖かい。確かに、この大陸ではもっとも北に位置する大国ではあるのだが、豊かな大地に恵まれ平和で闊達な街を作り出していた。

 芽吹きの時節。広大な平野を利用し、一大農業王国を築き上げるこの国。春をむかえ、農夫達は田畑の準備に忙しい毎日をおくる。のどかという言葉がこれほど似合う場所もあるまい。

 遥か東には霊峰ジルヴァニアが聳え、天気の良い日にはその頂の雪までもはっきりと見る事ができる。それは北大陸の象徴であり、ジル山岳地帯の主峰である。
 霊山より流れ出でる清水は、ノースグリーヴ王国の平野を潤して左腕海へと注ぐ。雪解けの冷水は、長い旅路の果て十分に暖められて支流に分かれていく。その流れは、命の息吹が聞こえそうなほど清廉で美しい。くねくねと蛇行した形の川は上空から見るとまた壮観であった。

 人は自然の恩恵を受けて暮らしてきた。小鳥達とともに春を唄い、真夏の川のせせらぎに一時の涼を見出し、落ち葉を数え秋を想い、陽光をきらきらと反射する純白の世界に冬を感じる。何代にも渡り受け継がれてきた生命の鼓動が、脈々と根付いていた。それは厳しい自然の地ブルーフォレアと、さほど変わりがないことなのかもしれない。

 ノースグリーヴ国国王に、辺境の地の英雄の息子ヒロ・ステラが、その父の訃報を伝えるため――そして、自らの意志で戦いたいと伝えるため――、この街を訪れた聖王樹の月二日はそんな春真っ盛りの暖かな日であった。




センチメンタルファンタジー
第六話 「血筋」



「うわわっっ!!」
「きゃっ!!」

 どすんという音を立てて、青年と少女は折り重なるようにして石造りの床に投げ出された。わずか一瞬とも感じる永遠の時空の歪みから突如として吐き出され、身体に戻った重さの縄をうまく掴む事ができなかったためだ。一歩離れた位置では、もう一人の少女が難なく着地を成功させていた。二回目ともなればさすがに感覚は掴めているようだ。

 床に描かれた魔法陣が燐光を放っていた。ぼんやりとした蒼い光がゆっくりとその力を失わせて行く。下から吹き上げる風があるかのように、少女のマントはわずかに浮力を孕んで優雅に舞っていた。
 三人に遅れて、翼を持つ幻獣の姿が現れる。こちらももちろんのごとく無事に着地していた。軽く頭と羽を振るわせ、『帰還』によって自分の身体に異常が発生していないかを確かめている。

「あいたたた……だ、大丈夫か? タエコ?」

 運悪く先に落ちた青年が、少女に組み敷かれる格好で床に倒れこんでいた。うまい具合に受けとめるような格好になったため、少女自体に怪我はないだろうと思われた。

「え、あ……うん、大丈夫だよ」

 状況が状況だけに妙にどぎまぎしながらタエコは答えた。青年に馬のりになるような体勢であるのだが、気が動転しているのかそれにすらも気がついていない。

「ここは? もうブルーフォレアじゃないのね……」

 青年の腹部にちょこんと腰掛けるような体勢のままくるりと辺りを見まわして、先ほどまでいたはずの辺境の地の丘ではないことを確かめる。そこは石造りの部屋であり、窓から光は取り入れられているもののどこか薄寒い中程度の規模の魔法儀式室であった。

「ここはノースグリーヴ王国、私の生家の一室です。ふたりとも大丈夫ですか?」

 すぐ後ろに佇んだ長髪の少女――ホノカがそう語った。

「あ、はい、大丈夫ですホノカ様」

 タエコが答える。身体に力が入らないのか、顔だけをホノカの方へ向けていた。

「もっと『酔う』のかなって心配してたんですけど、全然平気みたいです。本当に、あっという間でした」

 少々紅潮した様子のタエコの様子を見て、ホノカはクスッと微笑んだ。

「でも、実際には随分と時間がかかっているんですよ。ほら、もう随分と太陽が高くにあります」

 目線だけ陽光に向けて、少女はやわらかな笑みを浮かべた。窓の外では、空の高い所を太陽が通過している。もう既に昼も近い時間帯であろう。

「本当だ……。なんだか実感が沸かないけど」

 ヒロは床に仰向けに倒れたまま、その春の日差しを眺めていた。わずかに見える蒼空、そしてそこに流れる白雲は辺境地となんら変わりがない。けれど、もうここは別天地であり故郷とは遥か離れた地。不思議な感覚だった。

「『帰還』の魔法の移動時間は、距離と転送物の……つまり対象となる私達の魔法的質量に比例すると言われています。移動経路を短縮する転移系の魔法では、その肉体と精神を魔粒子に変換して異空間を移動します。そのためには、その存在自体の魔力量がネックになってくるわけです。魔法的質量というのは魔粒子に変換したときの要素の多さのことで、潜在魔力量にもかかわってきます」

 誰に語りかけるでもなく、少女は口を開いていた。理知的な光が瞳に映る。

「実際にその計測実験をおこなったわけではないのでどれくらいの割合なのかは知られていません。ただ、幻獣であるフォルテの魔法的質量は人間とは比べ物にならないため、私達はフォルテのちょっとした『重り』程度の負荷にしかならないそうです。だからの所要時間の九割は実はこの子の仕業なんですよね」

 そう説明して、悪戯っぽくホノカは笑った。どこかいじけたように鼻を鳴らす天馬が、タエコには妙にかわいらしく思えた。人などよりもずっと霊的に高度な存在である幻獣なのだが、どこか人間っぽさを持つフォルテ。主に似たのであろうか?

「そんなこと言ったらフォルテがかわいそうですよ、ホノカ様」

 つられるようにタエコも微笑みを浮かべながらホノカに答えた。説明された内容は半分も理解できなかったが、なぜかすっきりとした気分を味わっていた。ペガサスの仕草があまりにも人間味に溢れていたせいなのかもしれない。

「ごめんねフォルテ、別に責めてるわけじゃないよ」

 ホノカはその大切なパートナーの首筋を優しくなでていた。真っ白な鬣は、少女の髪に負けず劣らず細くて柔らかくとても美しい。ホノカにとっては触れているだけでなによりも安心できる瞬間があった。

「ところでさぁ、タエコ。ちょっといいか?」

 ふと、青年が口を開く。フォルテの様子をじっと見ていたタエコは、ヒロの言葉に視線をもどした。

「ん、なに? ヒロ」

 無邪気に微笑む少女。だが青年は困ったような表情を浮かべ、仰向けのまま空いた右手でぽりぽりと頭を掻きながら口を開いた。

「そろそろどけてくれないか? ――重いから」

 タエコの顔が瞬間的に真っ赤に染まる。と、言葉での反論よりも先に手が飛んだ。
 ぱちん、という小気味よい乾いた音が石造りの部屋に反響した。ヒロの目前に星が飛ぶ。

「い、いったぁぁぁぁ、な、なにするんだよっっ!」
「ひ、一言多いのよっ、もうっ!!」

 タエコは恥ずかしそうに立ちあがると、すぐそばに落ちていた法杖を拾い上げた。彼女の身長と同じほどもありそうな長い杖である。長老から出がけに預けられた、聖王樹の枝を材としたものだ。先端には翡翠の珠が取りつけられており、魔力を高めると教えられていた。

「ちょっとは手加減しろって!!」

 ヒロは真っ赤な手形のついた頬をさすりながら上半身を起こした。よほど強烈だったのか目にはうっすらと涙が浮かんでいる。こればかりは長年の付き合いがあろうとも慣れる事などできなかったことだ。

「自業自得でしょ、いい気味だわ」

 ぼうっとした頬の熱さと気恥ずかしさを押し隠すように、タエコはぷんと青年から目をそらした。ふたつのおさげにした髪が小さく揺れた。

――ほんと、仲の良い二人……。

 第三者であるホノカは、苦笑しながらその成行を見守っていたのだった。



 ノースグリーヴ王国の首都、ノースグリーヴ。北大陸最大の平野、北平原の中央に位置する見通しの良いこの地は未だかつて深部まで攻め入られた事のない街でもあった。東の果ての聖王国イーストエンドや、南大陸の軍事強国レディンスヒルのように強大な軍事力を持っているわけでもなく、かといって攻め入るだけの価値のない国でもない。だが、歴史上この国が侵略を受けたと言うことは伝えられてはいない。20年余り前の争乱でも、この地まで戦禍がやってくる事はなかった。もちろん、国境線近くでの小競り合いのような攻防はあったのだが、すべて撃退している。

 攻め入られない理由はこの街の立地にある。広大な平野の中心に位置していると言うことは、防衛戦には向かないように見えて実は突然の侵略・攻撃が困難であった。攻め入るには平原を行くしかなく、発見されないわけなどない。隠密の単体行動なれば進入はたやすいが、大群の侵攻となるとそう簡単にはいかなかった。

 農業力だけは大陸一であるこの街、篭城戦を行えばまず負ける事はない。攻撃側の補給不足を待ち、弱体化したところをたたけば良いだけの事である。遮蔽物のない平野地だからこそこの戦法を取れるわけであり、攻め入られても攻め落とされる事はなく、そういった理由から侵攻をうけたことはなかった。街を守るためには、なにも高い城壁に囲まれた地でなくてもかまわないのである。

 もっとも、この街を守る天馬を駆る大陸唯一の騎士団の存在も忘れてはならない。空を行く彼女らなればこそ、戦の要となる大将首を高空から一気に捕らえることができるし、戦場を自由に駆けるその存在感は兵士達の闘志を鼓舞するものだ。ほんの数えるほどの一握りの少数部隊であるが、間違いなく戦局を左右する存在であった。

 天馬騎士となるには、相当の修練が必要である。個人レベルでの戦闘能力はいうに及ばず、戦局を見極める力や軍を動かす統率力、どんな苦況にも耐えうる精神的な強さ、そして天馬に認められるだけの心の清らかさが求められる。高貴な血筋に生まれたからといって、それだけで天馬騎士となる事はできないのだ。

 王位継承権までも持ち合わせる少女であったとしても、その努力は並たいていのものではなく、血のにじむような日々の鍛錬と意志の強さが今の彼女を作り出していた。

 ただ、一般大衆の隅々までその事実の伝わっている事はなく、彼女の存在は羨望と嫉妬の眼差しで見られる事が多かった。それも、王家に生まれ育った故の逃れられぬ試練であったといっても過言ではない。


 辺境の戦士ヒロと治癒師タエコは、ホノカに導かれるまま馬車に乗せられ王城の中心部を目指していた。

 転送された部屋はすぐ外に開けており、天馬はそのホノカの生家であるモンド家の裏庭に放された。昼も近い時刻の太陽は、春の日といえど容赦なく辺りを照りつけ、暖かさというよりは暑さと言った方がいいほどの陽気さを見せていた。陽光のもとにじっとしているだけでじんわりと汗が浮かんでくる。

「これから少し出かけてくるから、ここで待っててね」

 ホノカは愛馬にそう語りかけるとにっこりと微笑んだ。本当に笑顔の似合う少女であるとヒロは感じていた。純粋に美しいと思うのだ。恋愛感情ではない、もっと別なものが青年の鼓動を早めさせていた。
 だが、その隣のタエコにとっては心中穏やかではない。ホノカと言う少女の人の良さ、純粋さはわかっているのだが……、わかっていても納得できない事はある。ヒロの羨望の眼差しも彼女にとっては嫉妬のもとにしかならなかった。もっともそれはホノカに対してではなく、ヒロにたいするムッとした感情なのであるが。

「さ、それでは参りましょうか」

 天馬から離れ、ホノカはヒロとタエコの手をとった。

「あ……」
「え……?」

 不思議そうな顔をした二人が「どこに?」と聞くより前に、ホノカは手を引いて歩き出していた。引っ張られ、必然的に歩き出す二人。

「あ、あの、ホノカ様?」

 タエコが口を開く。だがそれをさえぎるように、ホノカは言った。

「国王、アシュワイザー・イル・フスコ・ノースグリーヴがお待ちです」

 凛とした声音は、間違いなく彼女が高貴なる身の上であることを証明していた。二人は素直に頷いて応えるしかなかった。


 ホノカの生家であるモンド家は、王城内の東の離宮にある。霊山ジルティアを望む、東からの侵入者達を防ぐ役目を担う分家である。街は王城のこちらがわと北側にはあまり展開されておらず、高い城壁の向こうは閑散とした平原がいきなり広がっている。

 北王国は広大な領地を有しているだけにその城の大きさだけでも並の街以上の物であった。他国の中心都市と違い町全体を囲う城壁がないここでは、ひとたび戦になれば城にすべての住人を収容することで一般人たちの安全を確保していた。

 とはいえ、平穏な時代の長く続いた今では、王城内に点在する建物に王家の血に連なるものたちが、わずかばかり住んでいるだけである。もちろん正規軍の施設もあるし、食料貯蔵用の施設もあるのだが、その敷地面積に対する人の数はずいぶんと少なかった。王宮内の移動には、もっぱら馬車を使用するのが常である。

 タエコは王侯貴族の所有物とは思えないほどこざっぱりとした作りの、簡素な馬車の窓から見えるゆっくりと流れる景色を見ながら、再度遠い異国の地に来た事を実感していた。日差しも、流れる風の匂いも、辺境のものとはまた違うものだ。

――これから、私はどこへいこうとしてるのだろう?

 そんな考えが浮かんだ。いや、今目指しているのが王城であることはわかっている。そうではなくてもっと別な……それは想いの行方とも言える、意志の持ち方であろうか。
 なかば強引にヒロについて来たタエコ自身には、青年のように「世界を救う」とか「父親の姿を追いかける」といった想いはない。

 ただ、置いて行かれたくなかったからついて来た――、それだけだ。

 奇しくも運命は彼女を拒む方向には流れず、今はまだゆったりとタエコを包み込みながら揺らめいている。この流れがいつか激流に変わるとき、少女はちっぽけな一石にしかなれないのかもしれない。流れに飲みこまれて消えるだけの存在なのかもしれない。

――そのとき私はどうするのだろう……?

 石畳を走る馬車。路沿いに一定間隔で植えられた萌え立つ翠の木々は、少女の心の葛藤に答えるべくもなく、ゆるゆると風に弄ばれているだけである。遠くから聞こえてくる小鳥達のさえずりも、どこか別世界での出来事のような気がしていた。

 煌く陽光、澄み渡る空、それは暖かな春の日。何一つ暗いところのない、希望に満ちた街。なのに、なぜか自分だけが置いて行かれたような不安感、自分だけが地に足をつけていないかのような不確かさ。隣にいるはずの青年の存在さえも、もしかしたら幻影なのではないかと焦燥感がつのる。

――今はまだわからない……けれど、いつかはきっと……

 タエコの瞳は窓の外の遥か遠く、聖王樹のある辺境地に向けられていた。心の整理はついていないし、つけられそうにもなかった。だが、逆に考えれば、まだ旅は始まったばかりだ。いや、始まってさえいないのかもしれない。それなのに、達観し平静でいられるはずがあろうか?
 そう考えると少し楽になれた気がした。本当は迷うだけの事ではないのかもしれない。青年と一緒に居たいという心の底からの想いさえあれば、なにも不安に思う事はないのかもしれない。膝の上においていた拳をぎゅっと握り締める。

 ふと、馬車内に視線をもどすとホノカと目が合った。少女の様子になにか感じ取ったのか「どうかしましたか?」というような瞳で小首をかしげる。タエコは小さく左右に首を振ると、やわらかな笑みを浮かべて少女騎士に返した。

 石畳の馬車道の前方には、ゆっくりと白亜の王宮が近づきつつあった――。



 数刻後。

 三人は王宮の回廊を歩いていた。朱の絨毯が基幹となる通路にだけ敷かれている。幾本も横道があり、その先にはいったいなにがあるのかと青年の興味をそそったが、いまはスタスタと先を行くホノカの背を追いかけるので精一杯だった。
 それほど早足というわけではないが、入り組んだ廊下を迷わず歩く少女と、さまざまなものに気を取られながら追いかける辺境育ちの二人である。意識的に追いかけるようにしていないと見失ってしまいそうだった。

 石造りの王の居城は、比較的古い工法で作られていた。基盤となっているのは数百年前の、建国時に建てられた当時のままなのである。修繕と増築によって現在に至るのだが、ほとんど昔のままの様相であった。王宮修繕士があえてそうしているのかもしれない。

 もっとも連れられてきた二人にそれらがわかるはずもなく、ただただ珍しいものを眺める目で周りを見ながら、ホノカの後に続いていた。

 先ほどからホノカは黙ったままだ。こころなしか表情も険しいような気がする。二人はおなじように黙してついてゆくしかなかった。

 幾度目かの角を曲がり、階をあがる。通路にはなおも多くの分岐があり、ここから外に出ろといわれてももう無理なほど方向感覚はなくなっていた。

 ホノカは二人をどこに連れて行こうというのか? この奥に王の間があるというのだろうか?

 廊下の所どころですれ違う衛兵に「ごくろうさま」と声をかけながら、ホノカは進む。その歩みにはまるで迷いがない。

 ヒロは隣を歩くタエコをちらっと覗き見た。彼女も不思議そうな顔をしている。よくはわからないが、こんな奥まったところに国王が控えているとは少々疑問であった。

 彼は、御伽噺の中での勇者と王との謁見を思い浮かべていた。だが、事実は必ずしもそうではない。第一、彼は勇者ではないし、王が健在であるとは限らないのだ……。


 不意に、ホノカが足を止めた。赤い絨毯はまだ先へと続いているが、そこには扉と衛兵が二人佇んでいた。扉の左右に一人ずつ、矛槍を手にした守備兵が立つ部屋。扉もそれまであったものとは違いどこか豪奢な作りである。
 北側に向けて大きく切り出された「窓」からは、ここが随分と高い位置にある事を知らせていた。陰になる場所であるから、春の日とは言えども底冷えするような寒さがある。衛兵も完全防寒だ。

「これはこれはホノカ様ではございませんか、いったいどうしたのですか?」

 二人のうち歳かさのほうが少女に声をかける。彼女とも顔見知りの衛兵長だ。

「陛下に所要がありまして。起きていらっしゃいますか?」

 緊張の面持ちが抜けきらない笑みでホノカはゆっくりと答えた。『陛下』と言う言葉に、彼女の後ろに控えた二人がぴくりと反応する。その単語が、王のことを指し示していることぐらいはわかった。

「ええ、先ほどより起きておられます。今日は良い天候ですので、体調もよろしいようです」

 少女の緊張をほぐすかのような、やんわりとした調子で衛兵長が応じる。温厚な彼の人柄がにじみ出ていた。

「そうですか、よかった……」
「ところでホノカ様、こちらの二人は?」

 その職務をまっとうするために、中年も後期にさしかかった衛兵長が口を開く。至極当然な問いだろう。

「……」

 一瞬ホノカは答えに窮した。王につれてくるように命じられたのは、英雄リファス・ステラであり、このような若者ではない。おまけに少女までついている。きちんと順序だてて説明したとしてわかってくれるであろうか?

「……安心してください、彼らは私の天馬も認めた信用のおける人物です。今は、……それ以上は聞かないで下さい」

 ホノカはまっすぐに衛兵長の瞳を見詰めながらそれだけ言った。

「しかし、それでは私の役目が……」

 少女の真摯な瞳に、衛兵長ももごもごと反論を返すのが精一杯だった。無論彼だってこの少女の清純さは知っている。だが、このよそ者二人は別だ。

「お願いします。どうしても陛下に会わせたい二人なのです」

 もう一人の若い衛兵は、じろじろと少女の後ろの二人を観察していた。まだ若い、自分とさほど年齢も変わらないような二人である。どちらも彼にとってはあまりぱっとしないように映った。

「……よほどのことなんですかな? ホノカ様」

 眉毛を片方だけあげるようにして、衛兵長はホノカに言った。そして彼は、その視線を移しホノカの後ろに控える青年と少女をじっと見据えた。

「っ?! ま、まさか……いや、そんなはずは……し、しかし……に、似ている……」

 ふと、衛兵長の視線が青年にくぎ付けになった。うわごとのようにぶつぶつと呟く。
 突然の様子の変化に、ホノカはおろか若い衛兵も目を丸くした。ただ、当の本人であるヒロだけがきょとんとした表情で、現場を把握できずにいる。もちろん隣のタエコもそうなのであるが、彼女はもっと冷静にこの場面を観察していた。

――この人は、おじ様の事を知っている。

 だからこその反応。だからこその驚き。それほどまでに似ているというのだろうか?

「衛兵長、どうしたのですか?」
「いや、なんでもない……。ちょっとな……」

 若い兵士が、上司である衛兵長に尋ねる。もちろんであるが、まったく関係のない彼にはそうすることしかできない。

「……わかりました、ホノカ様。私が全責任を持ちましょう」

 一見厳しいともとれる表情のなかに、なにか希望を見出すような遠い眼差しが交じっていた。若い兵士を方手で制すると、彼は短くそれだけ口にする。

「良いのですか……?」

 今度は逆にホノカが尋ねる番だった。

「天馬騎士がみとめたとあらば、この国で反対するものはおりますまい。陛下もわかってくださいますでしょう」

『通す気になった本当の理由』をあえて口にだそうとはせず、衛兵長は三人を扉の前に導いた。ホノカは二人の顔をもう一度見て、こっくりと頷いて見せた。

「ありがとう、感謝します」

 小さく衛兵長に礼をすると、ホノカは大きな声で扉の向こうに向けて言った。

「天馬騎士団ホノカ・イル・モンド、入ります」

 言葉に合わせるように、二人の兵士は同時に両開きの扉を開け放つ。

「……行きましょう」

 ヒロとタエコを促すように言うと、ホノカは部屋の中に足を踏み入れた。
 少女の真剣な想いが、空気を伝わって二人にもひしひしと感じられた。だから二人もどこか緊張した面持ちでその後につづいた。



 南向きに大きく作られた窓から燦燦と午後の日差しが降り注いでいた。春風が薄布をそよがせる。光彩のカーテンが窓辺に踊った。
 広い作りの部屋であった。それは尖塔の根元につくられた一室であり、この城でもっとも日当たりの良い場所である。調度品の少ない部屋ではあるが、簡素であるとか雑な作りであるとかそういったイメージは受けない。所どころに飾り付けられた観葉植物の鉢植えの緑が、そういった印象を払拭させているのだろう。その部屋には、天蓋付きの大きなベッドと石造りの精巧な細工の施されたテーブルセットくらいしか見当たらなかった。

 しかし、それだけあればこの部屋自体は十分に機能する。ここは王の寝室であった。

「――よく来た、ホノカよ」

 ベッドに横たわる白髪、痩身の老爺――それが国王、アシュワイザー・イル・フスコ・ノースグリーヴである。数ヶ月前より体調を崩し、今は病と闘う日々を送っていた。

「このような場所でしか会えぬこと、許してほしい」

 純白の寝着に身を包んだ上半身だけをわずかにおこして、姪にあたる少女の来訪を喜ぶ。齢六十を数えるとは思えぬほどのしっかりした口調と、骨太でがっしりとした作りの体躯はとても病に侵されているとは思えぬほどだ。口元に蓄えられた豊かな白髭と、優しい眼差しが印象的である。

「もったいないお言葉です、陛下……」

 すっとホノカがしゃがみこんだ。片膝を立てて頭をたれるその姿勢は、略式ではあるが騎士の礼儀作法にのっとった挨拶であった。後ろにつっ立ったままだった二人も、あわててホノカにならう。

「気にせずともよい、はやく顔を上げて私に良く見せておくれ」

 温厚そうな笑みをうかべ、手招きでホノカを近くへと誘った。ベッドの横には侍女が一人控えていたが、ホノカに一礼をして王のそばから離れた。

 ノースグリーヴ王国の王家の血筋と呼ばれる者達は、ほとんどが男である。どういったわけか女児の出産は皆無であった。王制議会政治を執り行なうこの国では、結局の所そのほうが好都合であるのだが、同じ血族の女性がいないというのはいささか寂しくもあった。現時点での事実上王位継承兼を持つ女性は、王の末弟ルフェノア・イル・モンドの娘、ホノカただ一人なのである。

 姪と叔父という関係でありながら、年齢的には孫と祖父とも言えるほどの開きがあり、だからこそホノカは非常に可愛がられていた。それはこの城にいるものならば、周知の事実である。

「陛下、今日は陛下に御紹介したい人物と一緒に参りました。突然の来訪ですが、お許し下さい……」

 姿勢はそのままで、少女は顔だけを国王に向けた。必死さが伝わってくるような、そんな表情である。ヒロとタエコはまだ頭をたれたままの格好であった。

「……ふむ、そなたの後ろに控えし二人か?」

 髭をなでつけながら、王は二人の若者を見やった。興味津々といった瞳は、まるで子供のような純真な輝きを失っていない。警戒心もなくはないが、溺愛する姪のつれて来たものなれば深く疑うことを知らなかった。
 王の問いかけに、ホノカはコクンと小さく頷いて答える。

「面を上げてみよ、若者よ」

 威厳をもった王の言葉に、恐れることなくヒロは顔を上げた。そしてまっすぐに王の顔を見上げる。タエコもゆっくりと王の方に顔を向けた。

「お初にお目にかかります、国王陛下」

 少々緊張したような口調で、ヒロは言葉を紡いだ。田舎育ちの青年といえども、他国の身分社会というものは知っていたし、なにより一国を統べる王である。辺境の村の村長とはわけが違う。

「む……」

 と、そのとたんに王の目つきが鋭いものへと変わった。先ほどまでの温厚な老爺といった雰囲気はすでになかった。まるで獲物を見据える獣のような、間違いなく一国の主たる眼力である。それは王の若かりし頃のものと、なんら変わりがない力にあふれたものだった。余りにも突然の変化に、ホノカもタエコも状況を飲みこめずにいる。

「――そなた、名は?」

 その激しいまでの視線をまっすぐに受け止めながら、青年は臆することなく答えた。

「辺境の戦士リファス・ステラの子、ヒロ・ステラ」

 リファスの名が出た時、王の体がぴくりと反応した。だが眼光は相変わらず厳しい。

――あの男の息子か。

 病床の国王は、青年の瞳を一目見たときから心に浮かんでいたぼんやりとした『なにか』が、確信に変わるの感じた。

――どおりで似ていると……

 青年の姿に、若き日の英雄の姿が重なる。なぜか目頭が熱くなった。

「今日は父のことで陛下にお伝えしたい事があり、ここまで参じました」

 ヒロは言葉を続けた。その声は決意に溢れており、王の睨め付けるような視線をものともしない。生まれてからずっと一緒に育って来た幼なじみのタエコでさえも、青年のこの毅然とした態度には驚きを隠せなかった。

「うむ……此度ホノカ・イル・モンドに任じた命は、そなたではなくリファス殿を呼ぶためのものであった。息子であるそなたがこうして出向いているということは、当の本人にここまで来る事ができぬわけがあるのだな?」

 ホノカに対するときとは違う一国の王としての接し方に、仲介者である当のホノカ自身も戸惑いを覚えていた。そして「ヒロは大丈夫だろうか」という想いが浮かぶ。

「……はい。父は陛下の招に応じるすることができません」

 青年の表情に、一瞬翳りがさす。既に理由のわかっている二人の少女には、その青年の口調が刹那の間だけ昏くなったことを敏感に察知していた。
 だが、これは彼自身の問題である。口を出すことはできない。

「して、来れぬ理由とは?」

 追求するように王が述べる。表面上はあくまでも厳しい姿勢を崩さない。
 ヒロは意を決したように、口を開いた。

「陛下、残念ですが父は既に他界しているのです。一昨年前の冬の日、突如村を襲った闇の魔物と相討ちになり――、命を落としました」

 青年は靭よかった。タエコさえ知らぬ心のつよさを見せていた。

 それまで思い出すのもはばかられるほどだった出来事を、対峙する王に伝えていた。ホノカの時のように淡々とした調子になることもなく、かといって熱気にはやる気持ちに流されるまままくしたてることもなく。ただ、素直に事実を述べていた。

 以前思い起こすたびに押しつぶされるような重圧を感じていた事実、だが今はなぜか平静にそれを受けとめることができていた。

「な、なんと……まことか? あの男ほどのものが……」

 王は驚愕を隠せずに目を丸くしていた。それまでの厳しかった瞳が狼狽にかき消されて、本来の表情が戻っている。

「父は、最後まで戦って死を迎えました。戦士なればそれも本望でしょう」

 タエコは王の顔を見る事ができず、ヒロの隣で下唇を噛み締めたままじっと床を見つめていた。また思い出してしまったねっとりとまとわり付くような「死」のイメージは、そうやすやすと少女の心から消える事などなかった。そう、一番の当事者であるその息子が、それを乗り越えていたとしても――。

「そうか……、良き親友達はみな、私をおいていってしまうのだな……」

 寂しそうに呟く。王の瞳はどこか遠くを眺めるようにぼんやりとヒロをみつめていた。そして、不意にその年齢相応に老け込んでしまったかのように感じられた。

「訃報ではあるが、その知らせ、大儀であった。礼を言おう」

 王は、話に区切りができた所で青年の労をねぎらった。
 だが、青年にとってのここへ出向いた真の目的は、これからである。

「陛下……、実はお願いがあるのです」

 青年はゆっくりと口を開いた。その瞳の奥に燃ゆる決意の炎は、先ほどから一片も揺らぐことがない。まっすぐな強さが、そこにはある。

「ふむ、願いとは……。よかろう、友の忘れ形見だ、できる限り力になろう」

 青年の真剣な眼差しを、今度は王が受けとめる番であった。それは若さゆえの行動力なのかも知れない。畏れを知らぬ血気にはやった気持ちとはまた違う、純粋に『なにか』をやり遂げたいと思う気持ちであろうか。

 窓辺に置かれた常緑の観葉植物の、剣のようにとがった葉がわずかにふきこんだ風に遊ばれる。平原を渡って来た春風は、新緑の香りを十分に抱いて部屋を廻った。暖かい。

 しばしの沈黙の後、

「――魔との戦いに参加したいと思います。英雄とまで呼ばれていた父と同じだけの力になることはできませんが、それでもなにか役に立てると思うのです」

 そしてヒロはそう言った。見上げるその姿勢を変えることをも忘れたように、一心にその視線を王へと送りつづけた。

「ヒロ・ステラ殿の能力は私が証明します。彼ほどの戦士は、そうそういるものではないでしょう」

 と、それまで黙して控えていたホノカが口を挟んだ。彼女の瞳も、青年となんら変わりのない光に満ちていた。

「それに、彼の隣に控えたる少女は治癒師なのです。その力も私は身を持って体験していますし、確かなるものです」

 すらすらと台詞がでてくるホノカに対して、タエコはがちがちに緊張していた。

「た、タエコ・ラモーレです……」

 聞き取れるか聞き取れないかのギリギリのところで、とりあえず名前だけ言った。いや、正確に言うとそれ以上なにを言っていいのかわからなかったのである。緊張のせいかその声は妙にうわずっている。

「闇の眷族達は、確実に大陸を蝕んでいます。現に昨日ブルーフォレアの森にも『それ』は出現しているのです……。『それ』は恐ろしいほどの生命力を有した魔の化生で、淡々と世界を手にする日を狙っています」

 いったん言葉を区切り、ヒロはちらとホノカを見た。わずかに青ざめた少女も王に向かってこくりと頷く。それが真実であることを証明するために。

「今はまだ、水面下の行動にしか過ぎないのかもしれません。けれど、これからどうなるかの保証はどこにもないのです。だから早くその準備を進めなければなりません」

 ヒロの言葉に、王は脂汗を浮かべていた。二十年余前のあの日、彼に警鐘を鳴らすよう申告した男と、まったく同じ内容である。

――血のなせる業か……、やはり親子。

「よかろう、ヒロ・ステラ。そなたの願い聞き入れた」

 王は青年の言葉をなかば押しきるような形で大きく頷いた。このあと青年がなにを話すのかなんとなく予想がついたのだ。既に遥かな時間が流れているが、二度も聞かなくてもいいと判断したからである。青年自身は気づくはずもないが、その力強い眼差しはリファスそのものであったのだ。

「そなたにはとある任を与えよう。各国に渡り歩き『世界の危機』を告げて回るのだ。その国の代表者に宛てて私が書状をしたためる、それを持って」

 突然の王の申し入れに、一瞬なにがなんだかわからなくなったが、理解するとそれは願ったりかなったりなことであった。ぱっと青年の顔が明るく輝く。

「陛下、よろしいのですか」

 月光神フリーイッドがヒロに告げた『大陸の南端で、世界神が復活しようとしている』ことから、南に向けて旅に出る事を考えていた。特に許しを得る必要は本来ならばないのかもしれないが、父の旧知の仲である王に認めてもらうということが、なぜか大事なことのように感じていたのだ。

「うむ、だが。無条件と言うわけにはいかぬ。書状を持ち、国を廻るとはいえ大変危険なものになるであろうことは周知の事実。無理をさせて命を落とすような事があれば、それこそリファスに申し訳が立たぬ事になる」

 破壊の神の復活の予兆なのか、普段はおとなしいはずの森に住む獣達も殺気立っていた。国境の森林地帯では、狂暴化した森狼の群れに隊商が襲われたと言う話もある。

「では……」

 どうすれば、と続くはずだった青年の言葉を手で制すると国王は言葉を続けた。

「護衛をつけよう。あまり大人数では行動しにくかろうから一人になるが、手練で信用のおける人物だ」

 ちら、と王はホノカに目くばせをした。瞬間目があって少女は驚きの表情にかわる。

「ホノカ・イル・モンド・ノースグリーヴ、そなたを国王命でヒロの旅路に随伴することを任じる。――よいかな?」

 一瞬おくれて、ヒロとタエコの表情も驚きに包まれた。

「わ、私が……?」

 その言葉がにわかに信じられず、思わずそう口にしていた。王のまなざしは普段と変わらずやさしくあたたかいのだが、その奥に『試練を乗り越えてみせよ』という厳しさのようなものが見え隠れしていた。

「その目で見、その身体で感じ、その心で信じたものを貫きとおしてみよ」

 王にとっては孫のような可愛い姪、だからこそそのまま籠に閉じ込めて世界を見せぬ不幸は負わせられなかった。広い国土を持つとは言え、所詮王宮のなかでの羽ばたきであれば真実は見る事はできない。

「は、はいっ!」

 勢いよくホノカは返事をした。鼓動が早くなり、気持ちが高揚して来る。リファスをつれて来るよう任じられたときとはまた違った、気の昂ぶりを感じていた。

「書状はできあがり次第届けさせよう。まずは東を目指すとよい、大陸の東側にはティレンサイド自治区がある」

 ホノカの応えにゆるやかな笑みをうかべると、その視線をヒロに向けなおす。王は、侍女を手招きで呼び寄せるとなにかを持ってくるように伝えていた。

「大陸の中央にある霊山ジルティアの南側には、ティレンサイドへ街道が続いている。そこをいけばいくらか危険も少なくなるであろう」
「はい」

 王の進言に神妙に頷く青年。と、駆けるようにして侍女がなにか乗せられた盆を持って来た。それを受け取り、ごくろうと一言いうと王は侍女を下がらせる。

 なんだろう、という目で見上げるヒロに向けるようにして、王はその上質な織り布で作られた小さな袋に治められているものを取り出して見せた。手のひらくらいの大きさの円形の金属板であった。大きめで厚手のコインのような形、表面には精巧な天馬の翼のような掘り細工が施されていた。黒銀色に鈍く光を照り返す。

「それは……?」

 青年は疑問を素直に述べた。国王はこっくりと頷くと、

「ノースグリーヴ王家の紋章を刻んだものだ。身分の証明になろう」

 と答えた。ヒロは、王の心遣いにただただ敬服するのみであった。深く頭をたれる。

「ありがとうございます、陛下。この任、きっと果たしてみせましょう」

 心の中で女神フリーイッドにも感謝の言葉を述べながら、青年はすっと立ちあがった。それに反応してタエコも立ちあがる。

「――生きて帰るのだぞ、それまで私は死ねぬ」

 深く重みのある一言であった。だが、これから青年達のやろうとしていることに対してはこれ以上もない言葉である。一歩、王のもとへと踏み出して青年は王家の紋章を受け取った。

「はい、必ずや……」

 もう一度一礼し、ヒロとタエコは王に背を向けた。最後にホノカが王に小さく『いってきます』と口を動かし、青年達の後を追うように部屋を出た。パタン、と小さく音を立てて扉が締められる。青年達は、振り向かなかった。そうすることが、王への決意の証しであるかのように。


 王の寝室は、つい十数分前の平静な状態に戻っていた。なにごともなかったかのように、侍女が王の寝台のそばにすっと控える。

 国王はふうと一息つくと、旅立ちゆこうとする若者達をずっと見送っていた視線を窓の外へと移した。青年の背中は、その年齢に似合わず随分と大きなものとして映っていた。まだ若かりし日の王が、後に英雄と呼ばれる事になる男リファス・ステラを初めて見たときと同じような感覚である。

「血は、争えぬか……」

 遥か遠くを眺めるようなまなざしで、国王はそうポツリと呟いた――。



To be Continude.

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